今日から実践患者さん別に口腔ケアのポイントを紹介します

患者さんが自分らしく生き、より良い人生を送れるように!そのために口腔ケアはあるのです。

日本赤十字広島看護大学の客員教授であり、ヒューマンケアリングセンター認定看護師教育室長を務める迫田綾子先生。「摂食・嚥下障害看護認定看護師課程」の主任教員として、“食べる幸せ”を目指す看護師の教育活動に尽力されています。「ただキレイにするだけでなく、1人ひとりのお口の状態に合った、その後の人生にまで関わっていく口腔ケアが大事」という迫田先生から、メッセージをいただきました。

迫田綾子先生

日本赤十字広島看護大学
客員教授 迫田綾子先生

目の前にいる患者さんを敬い、その後の人生に関わる口腔ケアを!

口腔ケアの目的は“人の尊厳を守る”こと。尊厳とは、“自分らしく生きる”ことだと思っています。こう考えるようになったのは、口腔ケアを始めて間もないころに参加した在宅訪問のボランティアがきっかけです。口の状態ひとつで、目が輝き、話せるようになり、本当の笑顔が出てくる。患者さんの変わり様を見て、なんて素晴らしいのだろうと心が震えました。あのとき自分の中に芽生えた「口腔ケアを広めたい」という想いは、今なおどんどん大きくなっています。
50歳になってから広島大学の大学院で学んだのも、そのため。口腔ケアを広めるには、看護師として自分の考えをきちんと伝え、相手に受け止めてもらう必要があります。それにはもっと勉強しなければダメだと思ったのです。
卒業後に赴任した日本赤十字広島看護大学は、“ヒューマンケアリング”という教育理念を掲げています。看護を必要とする人々を慈しみ、かけがえのない存在としてお世話をし、人生をより良くするよう関わること。そして、ケアをする側もされる側もお互いに成長していくことです。
この「患者さんの生活を整える」という看護師の大きな役割において私は、「すべての生活を表わすのが口の中」だと考えています。つまり口を通して生活を整え、その人らしい人生を送ってもらう。こう考えると、看護と口腔ケアがうまくつながるのではないでしょうか。
口腔ケアは、まさにヒューマンケアリングなのです。その人の健康づくり、その人の望み、その人の生き方……。そこから考えないと寄り添うことはできないし、人生をより良くするケアなど決してできないと思います。

目の前にいる患者さんを敬い、その後の人生に関わる口腔ケアを!

その人が一番困っているのは何か。どこまでなら自分の力でできるのか。

人間は亡くなる瞬間まで成長し続けるといいます。病気になることも成長の1つのステップであり、そこを這い上がることで人間は大きくなれるのです。そのときに看護師がどう助けるか、これこそが看護です。そして、その中で口腔ケアによって食べられるようになるということは、その人が一歩を踏み出す大きなきっかけなのです。
先日、ある病院から「どう口腔ケアしたらいいのかわからない患者さんがいるので教えてほしい」と頼まれて行ってきました。そのうちの一人の患者さんは気管切開をしてほとんど全介助だと聞いていたのですが、実際にお会いすると手を動かせたのです。それを見て、“この方は自分でできるのではないか” と思いました。そこでまず、私がくるリーナブラシを使ってケアした後に「自分でやってみますか?」と聞いてみたのです。すると、少し間をおいてコクリとうなずかれました。
すべてやってあげようと思うから、“うまくいった、いかない”だけの判断で一喜一憂してしまうのです。その人が持っている力を、私たちがどう引き出すのか。そこから始めないといけませんよね。
技術を磨くことも、もちろん大事です。でも、ただキレイにしてあげればいいわけではありません。何より大切なのは、その人が一番困っていることは何なのか、どこまでなら自分の力でできるのかを見つけ、引き出していくこと。それが“人の尊厳を守る口腔ケア”につながるのではないでしょうか。

※5月に出版された迫田先生の著書『誤嚥を防ぐポジショニングと食事ケア』(三輪出版)は類書がなく、これまでの習慣的な看護や介護を見直すための布石になります。ぜひ参考にしてください。

その人が一番困っているのは何か。どこまでなら自分の力でできるのか。
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