看護学生時代に突然襲われた大病を乗り越え、看護師の夢をつかんだ阿部真由美さん。3年以上にわたって入退院を繰り返した自身の体験から、どんなときも患者さんの立場を忘れません。涸れるほどに涙を流した患者時代。そこから見えた進むべき看護の道。そして今、どんな想いで口腔ケアに取り組んでいるのか。「諦めない!」―この言葉の真意をお聞きしました。
恵まれた出会いが、私を看護師にしてくれた!
「余命3ヶ月」
じつは私、看護学生時代にそう宣告されるほどの大病をしたんです。自立したくて看護師になろうと思ったのに、ますます人の助けが必要になってしまって。入院期間は長く、転院も多かったですね。でも、逆にそのおかげでたくさんの看護師さんと出会うことができました。
自分の方向性を決めるうえでの重要なポイント。その大事な場面ごとに「こんなふうになりたい」と憧れる素晴らしい人たちに出会ってきたと、今すごく思います。たとえば私、自暴自棄になって看護学校を辞めようとした時期があったんですね。6年いたら自動的に退学という規則だったので、私はどうせ無理だからと……。看護師になる夢を諦めるつもりでした。ところが、学校の先生方がお見舞いに来て、こう言ってくれたんです。
「学校のことは考えなくていいから、あなたは患者の役割を一番にしなさい!」
看護学生と患者の2つの役割を両立しなければいけないと苦悩していた私に、教えてくれたんです。今一番大事にすべきは患者の役割であり、それをしっかり果たすべきだと! 雲が晴れたようにスッキリしましたね。後々わかったんですが、私の対応をどうするかの話し合いが持たれ、特例として6年を超えても在学を認めてくれることになったのだそうです。どこへ向かえばいいのか、そのために今何をすべきか。方向性が見えたことで、それからの私は患者の役割に集中できました。
「泣いていても1日だし、笑っていても1日。わずかな時間しか残されていないなら、思いっきり笑おう!」
そう思いながら毎日毎日笑っていたら、いつのまにか病気が治っていました(笑)。患者として安心してそこに立てたからこそ、病気に打ち克ち、もういちど夢を目指して看護学校に戻ることができたんだと思います。ただ、学校を卒業はしたものの、体に不安のある私を雇ってくれる病院はなかなか見つかりませんでした。そんな中、当院で働くことを許してもらえて14年。採用が決まったときの嬉しさは、今でもはっきり覚えています。
認定看護師の道へ進んだのも、やはりきっかけとなった看護師の先輩方や先生、そして患者さんがいます。分かれ道のときに必ず、「こっちへ来なさい」と導いてくれる人との出会いに恵まれるんですよね。私が今、看護師として充実した日々を送れているのは、そうしたみなさんのおかげ。人に支えられてきたからこそ、支えることの大切さも難しさもわかっているつもりです。
自分が受けたい看護を提供できているだろうか?
研修のときに、私が必ず言うことがあります。
「あなたが入院したときに、どんな看護をされたいですか?」
看護師になると、どうしても医療者視点に偏ってしまいがち。でも、自分もいずれ歳をとり、そうなる可能性があることを忘れないでほしいんです。スタッフ全員がその気持ちを持って口腔ケアに取り組む。そして、それを当たり前のこととして後輩へと引き継いでいく。そうすれば将来、自分たちが食べられなくなったときにその看護を受けられるわけですから。
私の目標はそこです! みんなが同じように「最期まで口から食べることを諦めない看護ってなんだろう?」と考えてくれたら、もっともっと口腔ケアが発展していくし、もっともっと自分らしく人生を全うできる患者さんが出てくると思うんです。どんなに忙しくても点滴は換えます。薬も飲ませます。口腔ケアもそれと同じで欠かしてはいけないものなのです。
口腔ケアは、食べるための第一歩。最期まで自分の口で食べたいものを食べられれば、ご本人も「あぁ、よかった」と思えるはずです。介護してきたご家族も「こうしてあげられた」と前を向けるのではないでしょうか。その亡くなる間際の一瞬を大事にしたいんです。
そんな私たちが口腔ケアのときに重宝しているのが、『吸引くるリーナブラシ・ミニ』です。くるリーナは柄がしなるので、口腔粘膜のストレッチをかけられます。絶対的に頬がやわらかくなりますね。ブラシのあのやわらかさもすごくいい! そのうえ、唾液や痰をしっかり吸引してくれるんです。口の中のリハビリをすると、唾液がどんどん出てきます。その唾液をきちんと飲み込めればいいのですが、飲めずに誤嚥させてしまったら大変です。そうした誤嚥の危険がある人も、安心してキレイにしながら機能訓練までできるんです。
汚れが落とせて、ストレッチをかけられて、吸引もしてくれる。しかも、余分な水分だけ吸って、必要な水分は置いていってくれます。患者さんも気持ちいいのでしょうね。口を開かなかった方が自分からアーンとしてくれますよ。
“食べる”ことは人の尊厳であり、“生きている”ことを感じる行為です。だから、それを守るための口腔ケアを諦めるなどという選択肢は、私の中にはありませんね。
筑波記念病院(茨城県)
摂食・嚥下障害看護認定看護師
阿部真由美さん