今日から実践患者さん別に口腔ケアのポイントを紹介します

「食は喜び」その機能を維持するために、口腔ケアを行なうのは必然です!

「単に清掃するだけでなく、1人ひとりの口の状態に目を向けながら“機能を回復させる口腔ケア”を! 患者さんの生活を支えるのが、私たち看護師の役割です」
そう語るのは総泉病院の看護師長、本田千葉子さん。研修担当も務め、日々後進の育成に力を注いでいます。どのような思いで看護にあたり、何を大切にして口腔ケアに取り組んでいるのか。「食べられるようになった患者さんを見るのが本当に幸せ」という本田さんにお話をうかがいました。

本田千葉子さん

総泉病院(千葉県)
看護師長
本田千葉子さん

「すごく効果が上がっている」後を絶たない看護師たちからの報告

「この病院でよかった」
患者さんにそう思ってほしいんです!
当病院は高齢者中心の療養型。患者さんにとっては、ここが生活の場になります。少しでも以前の生活スタイルやその人のリズムに近づけられるように、ご家族とも関わりながら何年も寄り添っていくわけですからね。
すべてを維持することはできないとしても、1つひとつのケアがその人に合っているかどうか。そこを大切にして取り組んでいます。実際に「ここでよかった、ありがとう」と言ってくれた方もかなりいらっしゃるんですよ。そのときに“看護師を続けてきてよかった”と思える自分がいるのかなって思います。
高齢者の中には、食べられなくなっていく方もいます。でも、それは病態が悪くなってというよりも、機能の低下によるところが大きいんです。食は喜びにつながります。だからこそ少しでも、咀嚼・嚥下の機能を維持できるようにしなければいけない。その方法の1つとして、“口腔ケア”が必要不可欠なんです。
口の機能が落ちれば、抵抗力も体力も落ちていきます。当然、病気が悪くなったり誤嚥性肺炎をはじめとする二次感染の可能性も高くなるでしょう。そのスピードをちょっとでも遅く、あるいは改善することでそれらを予防でき、患者さんの楽しみや喜びや幸せが続いていく。だとすれば、口腔ケアをやらないという選択肢はないはずです。
それに、口が臭ったり汚れていたら誰だって嫌ですよね。寝たきりであっても常に清潔に保てることが、療養型においては重要だと考えています。
口腔ケアを通じて“食べられるようになった”“しゃべれるようになった”という患者さんは決して珍しくありません。現場の看護師たちからも、「すごく効果が上がっている」という報告をたくさん聞いていますよ。

話せない患者さんでも、必ずどこかで受け止めてくれている

10年ほど前の話になりますが、85歳のKさんが認知症で入院されました。当時は車いすに座ってお散歩したり、ご飯も普通に食べていたんです。ところがある日突然、意識がなくなってしまって……。CTを撮ったら脳出血を起こしていました。
年齢的に治療ができない状態だったのですが、『柄付くるリーナ』を使った口腔ケアを続けるうちに、マーゲンチューブが取れ、口が動くようになり、さらにご飯を食べられるまでになったんですよ。その後も食形態の工夫と口腔ケアを続け、5年ぐらいは自分の口で食べていました。挨拶すれば、ニコッと微笑んでもくれました。そこまで取り戻せたのも、単に清掃するだけではない“機能を回復させるための口腔ケア”を提供できたからだと思います。
以前は、ガーゼで拭うのが主流でした。でもそれは結局、口の中に指を突っ込んで拭っているのと同じこと。当然ながら患者さんには嫌がられ、険しい顔をされましたね。一方、患者さんも歯ブラシはずっと使ってきたわけで、形は違えど『くるリーナ』シリーズはその延長線上にあります。認知症であっても、歯ブラシの感覚は残っているのだと思います。嫌がる方はまずいませんよ。
しかもブラシがやわらかいので、優しく汚れを掻き出してくれます。開口の悪い方でも少しの隙間からスッと入れて、歯の間や裏側もキレイにすることができるんです。しかも、柄のワイヤー部分がいい感じにしなり、頬などをマッサージするときにも負担がない。だからなんでしょうね、患者さんがあんなに気持ちよさそうな表情をしてくれるのは!
先ほどのKさんは、残念ながら今はまたマーゲンチューブになってしまいました。でも、あの状態から回復して一時的にでも自分の口で食べられるようになったのは、本当にすごいことです。脳出血を起こした場所が悪ければ、あのときに亡くなっていたかもしれないのですから……。
だからこそ、私たちはいつでも本気で患者さんと向き合い、後悔しないようにしていきたい。全力で取り組んで、今日も1日よかったと思えるようにしたい。自己満足かもしれませんが、話せない患者さんに対してもどこかで受け止めてくれているという思いで声をかけ、1人ひとりに合った口腔ケアを提供していきます。看護師はもちろん、すべての介護スタッフがベクトルを合わせて!

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